JAFストーリー

028 インフォームドコンセント

 

 広美さんと明菜さんは、高校時代からの仲良しだ。広美さんは地元の看護学校に通い、明菜さんは東京の小学校で音楽の教師をしている。

 

 ゴールデンウィークに明菜さんが帰省したので、ふたりは会うことにした。広美さんが家のクルマで迎えにいった。そのまま昼食にラーメンを食べ、CDを買いにいき、ケーキ屋さんに寄った。

 ケーキ屋さんの前は広い通りでパーキングメーターが設置されている。明菜さんの家族のぶんも含めてケーキを5個買った。明菜さんがケーキをひざに載せて助手席に。広美さんがエンジンをかけようとしたところ……かからない。

 

「ウィーンっていうばかりで……もう、ブルルンとも言わないような感じだったと思うんです」

 

 広美さんはふだん看護学校の寮にいるので、あまり車には乗らない。明菜さんは免許は持っているが完全にペーパードライバー。ふたりは途方に暮れた。

 

 明菜さんはJAF会員ではないが、ふだんから『ジャフメイト』が大好きで、友人からもらって毎月読んでいる。それもあって、すぐにJAFを呼ぶことを思いついた。うながされて、広美さんが自分の会員証を出して、電話してみた。

 

 オペレータに電話したあと、10分ほどするとサービスカーに乗った草薙正隊員が現れた。

 

「ああ、これがJAFかって……」

 

 明菜さんは、ふだん愛読しているヒーローものの主人公が現れたようだったと笑う。

 

「お待たせしましたって……すごい、なんかコミュニケーションがほんとに上手っていうか、つかまれました、心を」

「すごい動作が機敏で、機敏なんだけど威圧感を与えるわけじゃなくて、トークがなごませてくれて……ちょっと微笑みながら」

 

 ふたりして、大絶賛である。

 

 草薙隊員にとっては、ごく通常の作業だった。

 

「お客さんと話をしたら、かなり不安そうな感じで話をされてました。久しぶりで乗るんですって感じで言われて、電圧とか計ったら、バッテリーが原因だと判断して、一連の作業をしてエンジンをかけたんですけど……」

 

 看護師の卵である広美さんは、草薙隊員の対応に、とても感動したようだ。

 

「医療でいうところのインフォームドコンセントっていうか、これから私はこういうことをしますよってことを全部、わからなくても、わかるように説明してくださって、しかも笑いを交えながら……。看護師というのは、専門知識を持つ接客業だって思ってるんで、患者さんを笑わせることができたら強いなって……そう思ってるところに草薙さんが、もう、模範みたいな対応してくださったんで、感動したんです」

 

 広美さんがしきりに感心してました、と、草薙隊員に告げてみた。

 

「ほんまですか、なんでやろ」

 

 隊員は、ひたすら困るしかないのだった。