エリカさんの旦那さんは9歳年上。他人から見ればいわゆるお尻に敷いている状態かもしれない、と、いきなりおっしゃることが過激なのである。
なれそめはバイト先。出会ってから2年でつきあい、つきあって1年ちょっとで結婚。彼女が22歳のときだ。
「気がすっごい合ったんで……。私、このひとと別れても、こういうタイプを探すだろうなって思ったんですね」
ふむふむ、どういうタイプ?
「私から見れば、完璧っていうか、ま、月並みですけど、やさしいし、わがままきいてくれるしって感じですかね。年上だから、かわいがってくれるかなぁって」
それが結婚して7年半ほどたったいまでは、ケンカが絶えない。
「私がふっかけるんですけどね。ささいなことでふっかけて……子どもが生まれる前とかは、さんざん言いあって、説得されて、そうかそうだねって納得して、ごめんねって感じで終わっていくんですけど、いまは長引くんですよね。子どもの前じゃそんなに言いあってらんないし、ふたりになったときに言うけど、そのまま決裂して寝て、つぎの日もムッて感じでいて……そのうちパワーがすたれてきて……」
ま、よくある夫婦のよくある関係なのかもしれない。
子どもはふたり。
赤ちゃんを乗せて上の子を保育園に迎えに行こうとしたときに、クルマのエンジンがかからなかったのは2月だった。
「パニック状態で主人に電話したら、そういえばこの前ガソリンスタンドでバッテリーが弱くなってますよって言われとったけど、どうせお前、またオレが勝手にやると怒るもんで、また今度にしようと思ったら忘れとった、とか言って」
ここでまた奥さん、プンプンなのである。
旦那さんは「JAF呼んで直すなりバッテリー取り換えるなりしてもらえ」とノンキな様子。JAFに連絡すると、山崎康正隊員がすぐに到着。少し調べてすぐにバッテリーあがりと判明。
「どのみち換えなきゃいけないんだったら、お願いしたほうがいいかなって。いまからドキドキしながらお迎えに行くのやだなぁって思ったんで」
で、即座に交換。作業時間は15分弱。
「赤ちゃんが風邪ひくといけないので部屋にいてくださいとか、保育園の時間は大丈夫ですかとか、とてもやさしかったら、きっと子どもさんとかおられるんかなって」
と、エリカさんは、山崎隊員のことを頼もしく思ったのである。そのことをあとで話すと、山崎隊員は「子どもはいないですよ、結婚してないですから」とあっさり。プロならではの余裕のやさしさなのだった。
そして——。
プリプリと怒るエリカさんは、その夜帰宅した旦那さんに、いつものように「まぁまぁ」と誤魔化されてしまったとくやしがる。
実は、かわいい奥さんなのであった。