JAFストーリー

020 元日の小江戸

 

 元日のトラブルは、なにかと気持ちが重い。福岡雄二さんのクルマが動かなくなったのが1月1日。

 場所は、小江戸と呼ばれ、観光スポットとしても人気の埼玉県川越市。「時の鐘」に近い交差点。信号待ちをしている先頭でエンジンが止まったまま始動しなくなったのだ。

 

 川越市内で元日のアルバイトを終えた息子を迎えに行き、そのまま南浦和で1泊して、翌日、みんなで松本に帰ってくる。そういう予定だった。

 なので、飼っている犬を乗せて、奥さんと松本市の自宅を出た。川越で学生時代を過ごした息子さんは春からの就職が決まっていて、すでに南浦和に部屋を借りていた。その部屋が案外広く、両親と犬も泊まることができた。

 

 元日の夕方5時過ぎ。川越市内。

 

「アイドリングストップ、かかりました。青になったのでブレーキ離しました。でも、エンジンがリスタートしない。おかしいと。もう一回踏んでも、かからない」

 

 福岡さんは、ちょっとしたパニックになりながらも、ハザードを点滅させ、後部座席の奥さんにJAFに電話してもらい、自分は外に出て後続車を誘導した。

 

 息子は犬を連れて外に出た。JAFのオペレーターに110番にも電話するように言われたので、電話した。後続車のクラクションを浴びることもなく、しかも、近所の商店から人が出てきて車を押してくれた。

 

「みなさん、やさしくて……」

 

 パトカーが来て、すぐにJAFのレッカー車も到着した。

 

「ほんとに安心はしたけれども、南浦和までどうするんだ、と」

 

 山根信昭隊員はすぐにけん引の準備をして、安全な場所までクルマを運んで調べることにした。息子さんは犬を連れ、歩いて向かった。市役所そばの広い場所で調べてみたが、原因はわからない。

 

 運転席の隊員と話しているときに、ひょいとエンジンがかかった、と、福岡さんは言う。だが、山根隊員の記憶は少し違う。症状としては、エンジンは始動しかけるのだが、すぐに止まってしまう。

 

「チェックランプが点いていたので、なにかしら、コンピューターが異常を感知して、エンジンをかけさせないというか、アドリングさせないのかなと思ったんです」

 

 これから南浦和まで行き、明日には松本まで帰るという福岡さん。正月休みでディーラーはやっていない。山根隊員は提案した。

 

「ヒューズを抜いて、一回リセットしてみましょうって……」

 

 すると、エンジンは正常に再始動したのである。

 

「隊員さんが、途中までいっしょに行きますって。浦和の半分くらいまで、ついてきてくれた」

 

 荒川を渡った先にあるコンビニまで追従して、山根隊員は、改めて問題がないことを確認した。正月明けに、隊員に言われたとおりディーラーで点検してもらったが、問題は見つからなかった。

 

「町の人も、おまわりさんも、JAFさんも、みなさん、やさしくて……こんな町に息子はいたんだなと思って、ありがたかったなって」

 

 うれしい元日の記憶。