JAFストーリー

011 先生はタイヘン

 

 川崎武さんは、神戸にある私立高校の英語の教師である。いまは2年生のクラス担任でもある。

 話は、彼らがまだ1年生だった春のことだ。

 

 インフルエンザが猛威をふるい、35名のクラスのうち6名がダウンした。

 

「男子校なんで、かっこ悪いとかって、マスクしないんですよ……」

 

 少しやんちゃな男子高なのだが、さすがにインフルエンザではしゃれにならない。しかも、学年末テストの直前。

 

「休んでる明石市の保護者から、うちの子、教科書持って帰ってきてないし、ノートもそのまま放ったらかしやし、試験範囲もわからない、先生どうにかなりませんかって……電話があったんですよ」

 

 川崎さんの勤める私立高校は、県内の広い地域から生徒が通っており、遠くの地域には送迎バスが出ているそうだ。

 

「親としては、切羽詰まっとるから電話してきた……で、やっぱり、同じように休んでる子たちにしてあげないと不公平になるっていうことで」

 

 川崎先生、インフルエンザで学校に出てきていない生徒たちの自宅をまわることにしたのである。

 

「机のなかに入ってる教科書、国語数学理科社会世界史日本史ね、それを持って、各先生にもらったプリントと、試験範囲と時間割と……10教科あるから、保健体育もあるし、それを全部持っていって……

 

 まずは明石と加古川のほうにまわり、翌日、甲子園と三田方面に出向いた。

 

 川崎さんの車のメーターには、デジタル表示で、走行可能距離が出る。

 

「明石と加古川走らせて、つぎの日学校を出たときに、100キロくらいあったんかな。まず最初に学校の近くの子のところに行って、そのつぎに、甲子園に行って、甲子園のときに、それでも50キロくらいあったんですよ」

 

 三田市に向かって高速道路を利用した。そこで燃費をかせげると思ったのだが、あいにくゆるい登り坂。

 

「三田西インター降りたら、畑ばっかりやったんですよ。三田の生徒の自宅周辺は新興住宅街で、ガソリンスタンドらしきものはなくて、慌ててJAFさんに電話して、近くにガソリンスタンドありませんかって訊きました。そこからだったら5キロくらい行ったところにありますよって言ってくれて、いっぺん電話をおいて、なんとか行けるかなって思ったら、残りの距離がゼロになっちゃったんですよ。慌ててまた、ゼロになったんで来てくださいって」

 

 やってきたのは、谷口芳夫隊員。大雨のなか10リットルのガソリンを入れたことは、かすかに記憶している。

 

「確かに言われてみれば、お客さんに傘をさしかけてもらったのを覚えてます。濡れるので車に乗っとってもらってええですよって言ったと思いますね」

 

 そんな雨のなか、結局、川崎先生が最後の生徒の家に着いたのは、夜の9時ごろ。

 

「うちの方針は『面倒見のいい学校』というのがキャッチフレーズなんです」

 

 確かに、そのとおりである。