田代剛隊員は、7月8日午後3時頃、会員の自宅への出動要請を受けた。
「自宅でエンジンがかからないっていうことでした。バッテリーあがりじゃないようだし、やりがいがある仕事かなと思いながら行きました」
原因が特定しにくい案件かもしれない……という予想を、田代隊員は「やりがいがありそうだ」と思ったのである。
その日、木下さんは、家族で出かけるつもりでクルマに乗りこんだのだが、エンジンがかからなくて困っていた。クルマを購入して13年。ずっと入会していたJAFだが、救援を呼んだのは初めてだった。
「ほんの5分か10分くらいで、そこに、すごい機材をつけたクルマが横づけになったんです」
奥さんが庭先を指さして笑う。
「子どもたちにしてみたら、ヒーローみたいで……大きいね、ウルトラマンが来たねっていうような」
田代隊員は、到着後すぐに問診をし、実際にエンジンをかけてみた。すると一発でかかった。何度かやってみたが故障が再現しない。
だが、引き上げようと思ったときに、症状が出た。
「キュンキュンキュンって、クランキングはするんですけど、ぜんぜんかからない症状が出たんです。この症状ですね言うたら、ご主人が、そうですそれですって」
症状を確認して、田代隊員は改めて細かく調べはじめた。
「火花はちゃんと飛んでるんです。ということは燃料が来てないのかなと思ったんですけど、点検してかけると、今度はまたかかっちゃうんです。かかったりかからなかったり、というのがある。なにかヒントはないか……音とか感触とか、なにか、故障の原因になるようなヒントがつかめないかと思って、何度も何度も繰り返して……」
やがて小さな音に気づく。
「イグニッションをオンにして、ランプがついたときに、燃料を送る音がジーってするときと、無音のときがあることに気づいたんです」
静かな住宅地でなければ気づかないような音。音がするときはエンジンはかかる、音がしないとかからない。何度も検証して、田代隊員はその法則性を確信する。
そして、出した結論は「燃料ポンプ不作動時不始動」。
「よくこの原因がわかったなぁと自分でも感動して、お客さんと喜びを分かち合いましたね。こういう性格なんで、指令のほうも、こいつはたまにハマっちゃうことがあるってわかってくれてるみたいで、わりと時間的なものを気にせずに……ある程度納得いくまでやってみるんです」
そのあとすぐに、木下さんは、カー用品店で、田代隊員から教えてもらったとおり燃料ポンプリレーを交換した。それから障害は起きていない。
「感動したのは、プロ意識ですね。絶対解決するんだ、と。すごかったですよ。引き込まれましたからね、こっちもね」
木下さんは、つぎも田代隊員にお願いしたいと真顔で言った。