JAFストーリー

008 強風でドアが

 

 矢田さんは、タクシードライバーになって、およそ15年半。運転手が乗客のためにクルマを降りて後部ドアを開けるなど、上質な接客を売りにしているタクシー会社に勤めている。

 

 インターネットなどで調べて、評判がよさそうだったから、いまの会社を選んだ。

 

「挨拶をちゃんとする、車をきれいにする。そういう基本的なところから、社員を躾けている。それで、お客さまの評価が、だんだん高くなっていくんですね」

 

 矢田さんの言葉からは、勤務している会社のサービス精神に対する誇りがうかがえる。

 

「売り上げの8割くらいが、電話をいただいて無線で配車するという、リピーターですね。お馴染みさんも多くて、いいお客さまが多いです」

 

 矢田さんは、以前、JAF会員だったが、タクシーの仕事をはじめてから退会し、ふたたび会員になった。

 

「確か2年くらい前に、仕事中、世田谷を走ってるときにパンクしたんですよ。それで、JAFさんを呼んだんです。通常の規定料金を払いまして、直していただいたんですけど、そのときに、会員ならタクシーでもロードサービスを受けられるということを聞いて、ああ、入ります入ります、ぜんぜん知りませんでしたって……」

 

 そして、昨年の918日。台風18号が猛威をふるいながら東京に接近していた。朝6時前。芝浦から浦安方面に帰るお客さんを乗せた。

 

「台風が来るという予報が出てて、だんだん風が強くなってました。到着したころには、風速20メートル前後あったんですかねぇ」

 

 目的地に着いたとき、乗客が自分で後部ドアを開けて降りようとした。

 

「いちばんあぶないんです、お客さまが勝手にドアを開けるのは」

 

 矢田さんは慌てて車を降りて、後部座席にまわり、乗客を見送った。ところが、閉めたはずの運転席のドアがきちんと閉まってなかった。

 

「私の大失態です。ちゃんと閉まってなくて、風のせいで、逆にあおられちゃったんですね。バァンといっちゃった。ドアの留め金がはずれて、破損して、ドアが傾いちゃったんです」

 

 そのころ、会社の整備工場は汐留にあった。

 

「ぜんぜん閉まらなくて、ドアを手で、こう、持ってなきゃいけなかった。汐留までとても帰れないなぁと思いましてね……JAFさんをお願いしたんです」

 

 すぐに草野順司隊員が来た。

 

「半ドアの状態にでもなってくれればと思って、いろいろやってみたんですけどダメでした。布製のバンドを巻けば、とりあえず半ドアに近い状態にできるので、窓を少し開けて、窓枠とセンターピラーをいっしょに巻きました」

 

 清水隊員は、安全を確認しながら汐留まで伴走した。

 

「ずっとね、ついてきてもらったんです。うしろを」

 

 矢田さんは、そのときの感動を何度も口にした。

 

「ほんとに丁寧に、最後まで心配してくれて……私どもも、その精神を見習わなきゃいかんと思いました」

 

 完全にはドアが閉まっていない状態で走るのだから、うしろからついて行くのは当然のことなのだと、清水隊員はあえて言葉にさえせずに……。

 

「意外にこのトラブルは多いです。最近は開口部が広いドアも多いので、風が強い日は気をつけてください」

 

 まじめな顔つきで、そう言った。