JAFストーリー

006 新潟の海で

 

 ある夏の土曜日。

 万理さんは、彼と新潟の海にドライブに行った。彼とは看護学生だったころからのつきあいで、そろそろ4年になろうとしていた。

 

「長く長く、つきあってはいた……」

 と、彼女はそのころのことを表現する。

 

 とにかく、ふたりはその日、夏休みを取り、夜中の3時半ごろに諏訪を出て新潟の海に行ったのである。

 

「毎年のように行ってたんですけど、もう若くもないし、日焼けもしたくないからって言って、海水浴はいいから、おいしいものでも食べたいねって」

 

 そんな感じで、早朝から訪れた新潟の海岸で、釣りをして朝食を食べ、正午になる前に四ツ郷屋という海岸に到着した。砂浜の入り口付近に地元のサーファーたちがクルマを停めていた。ふたりはそのまま奥へと進んでしまう。

 

 見知らぬ場所に勢いよく乗り入れてしまい、固まった砂地をはずれ、その結果、クルマはスタックした。

 

「出る努力はしました、ふたりで……。砂を掘ったり、タオルとかをタイヤの下に入れて押してみたりとか、けっこうやりました、汗だくで」

 

 しかし、どうにもならない。

 

「彼はね、自分でなんとかしようっていうタイプ。でも、がんばったんだけども、もうどうにもならないって言って……」

 

 彼はまず保険会社に電話する。とぎれがちな携帯電話で、なかなか状況を理解してもらえず、何度かのやりとりのあと、結局、高額の料金が発生しそうだったのであきらめた。

 

「もうどうしようって思って、そしたら突然、彼が、あ、JAFって」

 

 つきあいはじめたころに入っていたJAFのことをようやく思い出した。スタックから抜け出せないまま数時間たっていた。

 

 佐久間浩二隊員の記録によると、午後2時8分受け付け、40分後に現場到着、2時59分作業終了。作業時間は10分とある。

 スタックした車をワイヤーで牽引するだけなのだから、かんたんな救援だった。だから、佐久間隊員は、救援のことをあまり覚えていない。

 だが、作業後、長野から来たのなら、新潟の海に沈む夕日を見て帰ってくださいと勧めたのは覚えていた。

 

 半日ばかり絶望的な格闘をしていた万理さんたちは、勧められるとおり、近くの海岸で美しい夕日を見た。炎天下、彼が不機嫌にもならず、彼女を励まし続けてくれていたことに、万理さんは感動していた。

 

 そして、夕日のせいで、彼の気持ちも少しだけ大きくなっていた。

 

 帰り道、まだ夕日の見える車のなかで、彼は万理さんに「結婚しよう」と言った。

 

 長くつきあってきて、タイミングを失っていたプロポーズの言葉だった。

 

「それで私、思わず泣いちゃったりして……」

 

 と、彼女は思い出して、照れた。