JAFストーリー

002 うしろ髪、やがて……

 

 

 

 佐藤牧夫さんは、ある夏、奥さんの実家である佐世保に、6月にがんで急逝した義理のお父さんの初盆で帰省した。奥さんとふたりのお子さんもいっしょだった。ほんとはもっとゆっくりしたかったのだが、仕事と子どもたちの部活の関係で1泊2日の、あわただしい帰省だった。

 

「佐世保からこっちに帰るときに、お母さんをひとり置いてくみたいでね……なんかこう、出るときからうしろ髪引かれる感じがあるし、つかんねェとか思いながら帰りよったですよ」

 

 6年めの愛車の走行距離は16万キロ。いつもは欠かさない夏の点検には出していなかった。

 

「小倉を過ぎたあたりで、急にクーラーが効かなくなったんですよ。ちょうど関門橋をこえて、もうちょっとで家に着くねと思いよったころに、ガタガタガタってものすごい音がしてですね」

 

 それでも、なんとか王司サービスエリアまでたどりついた。

 

「音がすごくて、バタバタバタって、もうオオゴトですよね。エンジンルーム開けたら綿だらけだったんですよ」

 

 2本あるファンベルトの1本が切れていた。ベルトのクズが白い綿のように舞っている。サービスエリアのガソリンスタンドは、お盆で長蛇の列だった。とても修理できるような状態ではない。

 

 少し前に、奥さんが、友人のクルマに乗っていてパンクしたことがある。そのときに友人が呼んだJAFのロードサービスの印象がよかった。そういうことを思い出しつつ、JAFに連絡してみた。

 

「入って10年くらいですけど、まさか自分が……それも高速で呼ぶようになるとは思いもよらんですよ」

 

 20分ほどして、下関基地から山崎隊員が駆けつけてきた。だが用意していたファンベルトはすべて合わない。基地に連絡すると、べつの隊員がいた。その隊員に基地近くのパーツショップでベルトを準備してもらい、王司サービスエリアまで運んでもらうことにした——。

 

 山崎隊員も、この一件はよく覚えていた。

 

「トラブルとしては大きいということはないんですけど、ちょうど待機している隊員もいて、部品もあって……ラッキー続きでした」

 

 作業の途中、激しく雨が降ってきた。びしょ濡れの隊員を、佐藤さんは気の毒に思い、となりに立って傘をさした。2時間ほどで作業が終わり、佐藤さんは濡れた服を着替えた。その間に米澤隊員は帰っていった。

 

「それでお礼が言えなかったんですよ」

 

「なんて、文句言うのよ」

 と、奥さんは笑う。

「コーヒーも出さんかったのかって。そんなこと言われても思いもつかないですよ……でも、ほんとに親切なひとだったね」

 

「世のなかって、こういうひとがおってから流れとるんやなぁって。オヤジが死んだりとか、いろいろあったじゃないですか、だからなのか、そういうのを感じたわけです。はげまされたんですよ、ほんとに」

 

 山崎隊員は長身の28歳。隊員歴10年である。