JAFストーリー

001  ある精神科医の気づき

 

 

 

 精神科医の海渡敬之さんは、専門分野の著作もあるが、仕事以上に熱心ともいえるのが、お芝居だそうだ。有名劇団の文芸部員に所属していたこともあるというから、趣味の範囲をこえている。

 

 クルマは、70年代初頭の古い英国車で、手に入れたのは92年ごろ。

 

「床は錆びて穴があいてた。走ってると地面が見えるくらいのクルマ」

 

 と、海渡さんは言う。購入して数年後にはフルレストア(総修復)に出して、2年間ほど帰ってこなかったらしい。その間は自転車に乗っていたというのだから、マニアも大変なのである。

 

 さて——。

 

 2003年1013日。劇団の稽古場に行こうとした海渡さんは、愛車に乗って世田谷区の自宅を出た。急に雨が降りはじめ、甲州街道を右折するために側道に入ったとたん、エンジンが止まった。

 

「雨とかで電気系統が濡れちゃうと、エンジンのなかで発火しなくなるんだよね。湿度が高いと急に止まっちゃったりするし、雨のなかではエンジンがかからなかったりするんですよ」

 

 と、海渡さんは、自分のクルマのことをよく理解している。

 

 すぐに土砂降りになった。彼は、クルマの外に出て、窓枠に肩をかけ、クルマを押して路肩に寄せた。そして、JAFを呼んだ。

 

 隊員はすぐにやってきた。

 

 「ぶあついゴムのカッパを着たお兄さんが見てくれた……。前のフックが弱いから、引っかけて引っ張ったら壊れちゃう可能性があるって言うわけ。牽引ができないんだよ。車載用のトラック呼ぶには3時間かかる……どうしようかっていうときに、もう1回エンジンかけてみようってやってくれたら、かかった。ちょっと小降りになってきたせいかもしれないんだけど、かかった、かかりましたって……」

 

 そうやって、エンジンは始動した。

 

「このまま走るのは心配でしょうから、しばらく伴走しましょうって言ってくれて……先導してくれた。おれはそのあとを走っていったわけよ」

 

 作業終了午後3時。甲州街道を左折して、自宅に向かう。

 

「西に向かっていく途中で、雲が切れて、青空が見えてきたんだよね」

 

 気象庁の記録によると、その日、午後2時から3時の間に30ミリの雨が降った。その後、一時晴れ。

 

 土砂降りの雨のなか、愛車のエンストにつきあって、びしょ濡れになりなった。そして、いま、目の前に青い空。そのなかを、JAFのレッカー車が、先導してくれている。

 

 精神科医の海渡さんは、ふいに、しみじみと思ったのである。

 

「カウンセリングっていうのはこういうもんだなぁって……」

 

 医者やカウンセラーと話すうちに、自分の道がおのずと見えてくるというのが、理想のカウンセリングなのだ、と。

 

「手を引っぱっていくわけでもなく、うしろから押してくわけでもなく、いっしょに走って行くと青空が見えてくる……っていうさ。これこそカウンセリングの神髄だなぁって」

 

 走行に不安があるとき、しかるべき場所まで伴走することは、JAFの通常業務のひとつである。